大阪地方裁判所 昭和33年(行)17号 決定 1958年9月10日
原告 樋口市右衛門
被告 国
主文
本件移送の申立を却下する。
理由
被告のした移送の申立の要旨は、「本訴は、登記に関する訴であるから、当該土地の所有地を管轄する裁判所もしくは登記をなすべき地の裁判所の管轄に属するというべきである。また併合請求である近畿財務局長に対する訴は不適法である以上併合請求の裁判籍は生じない。そうすると、被告に対する本訴の管轄裁判所は、大阪地方裁判所ではなく、神戸地方裁判所尼崎支部であるから、本訴を同支部へ移送することを求める。」というのである。
管轄違を理由とする移送の申立がなされた場合に、裁判所が、その訴訟がその裁判所の管轄に属しないと認めるときは管轄裁判所に移送の決定をしなければならないが、その裁判所の管轄に属するものと認めるときは終局判決の理由中でこれに対するその判断を示してもよいし、あるいは中間判決をして管轄権を有することを宣言してもよい。しかしそれでは当事者の管轄に関する利益を保護するに十分ではない(民訴法第三六〇条、第三八一条参照)から、当裁判所は決定をもつて申立の当否の判断を示すのが相当であると解する(この決定に対しては民訴法第三三条により即時抗告ができるものと解する)。
本訴は、原告の被告国に対する所有権移転登記請求事件であり、当該登記を求めようとしている土地は、西宮市鳴尾町鳴尾字照寂四五番、田一反一畝二九歩であるから、本訴について被告の普通裁判籍や不動産所在地ないし登記をなすべき地の裁判籍は当裁判所に属しない。しかし、併合請求の裁判籍が当裁判所にある。本件記録によると、本訴は、同一の事実上及び法律上の原因に基き同一土地の所有権移転登記手続を求めるために、国と大阪市東区杉山町一近畿財務局長大島寛一の両名を被告として訴を提起した主観的併合訴訟(併合請求の要件がみたされていることは明らかである)であり、右近畿財務局長に対する訴の普通裁判籍を管轄するのは、当裁判所である。近畿財務局長に対する訴と本訴とが併合して当裁判所に提起された以上、本訴についても当裁判所に併合請求の管轄権が認められるといわねばならない。被告は併合請求の裁判籍を生ずるためには当該請求が適法であることを要し、不適法である以上は各個に裁判籍を考うべきものであると主張するが、訴が不適法として却下さるべきものであろうと、請求が失当として排斥さるべきものであろうと、とにかく、併合要件を充足する併合請求である限り、併合請求としてその全部について管轄権を生ずるものと解すべきであつて、被告の右主張はあたらない。なお本件併合訴訟提起後に、原告は管轄原因となつた右近畿財務局長に対する訴を取り下げているが、裁判所の管轄は訴提起の時を標準として固定し、その後の事情によつて変動を生ずることはないのであるから(同法第二九条)、一旦適法に当裁判所に係属した被告に対する本訴は、右取下によつて当裁判所の管轄をはなれるものではない(併合請求の管轄権ありとされることによつて生ずる結果的不都合は民訴法第三一条によつて是正される途がある)。
以上のとおり、本訴は当裁判所の管轄に属し、被告の本件移送の申立は理由がないから、主文のとおり決定する。
(裁判官 平峯隆 松田延雄 山田二郎)